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Windows 10 SとSurface Laptopを武器に文教市場で反撃の狼煙を上げるMicrosoft

2017年05月04日 13:16

Microsoftは米国時間5月2日にニューヨークで行なった記者会見で、同社が文教向けと位置づける「Windows 10 S」と、それを搭載したクラムシェル型PC「Surface Laptop」を発表した。

 現在PCメーカーにとって文教市場は非常にホットな市場で、多くのメーカーがその可能性に注目している。Microsoftがこうした文教市場にフォーカスした記者会見を行なった背景には、Microsoftの競合となるGoogleがChromebookのメインターゲットに文教市場をすえており、ある程度成功を収めているからだ。

 それに対抗する施策が、今回Microsoftが発表したWindows 10 Sと、同社のサブスクリプション型OfficeスイートとなるOffice 365の文教版となる「Office 365 for Education」で、それらを武器にGoogleとの競争で優位に立ちたいという狙いがある。

GoogleはChromebookのメインターゲットを文教市場へと変更して成功を収める

日本にいると、GoogleのChromebookがMicrosoftにとって脅威になっているということがまったく感じられないが、米国では現実的な脅威になっている。PCメーカーの関係者によれば、低価格なChromebookは、従来はWindowsが持っていた文教向けの市場シェアを崩しつつあるという。このため、Acer、ASUS、HP、Dell、LenovoといったPCのトップメーカーはいずれもChromebookを製造しており、それを文教向けに売り込んでいる。

 当初、GoogleはChromebookをノートPCの代替として、一般消費者向けの市場にも力を入れていた。しかし、うまくいかず、WindowsやmacOSの牙城を崩すことができなかった。そこで、Googleは方針を転換し、Chromebookを文教向けと位置づけたところ、米国ではそれなりに成功を収めたというのがこれまでの状況になる。

 Chromebookが文教市場で成功を収めた背景としては、Chromebook自体の低コストさ、さらにはGoogleのクラウドサービス(G Suite for Education)と組み合わせることで、デバイスの管理が容易になるなどが挙げられている。特に文教市場の場合、デバイスの管理は現場の教師に任されることが多いため、管理の容易さは重要だという声は非常に強い。

 また、G Suite for EducationにはGoogle Classroomと呼ばれる、課題や学習状況の管理、学習目標の達成を支援するクラウドサービスも用意されており、それも魅力の1つとなっている。

WindowsストアからしかアプリをインストールできないWindows 10 S

そうした状況に対する、Microsoftの反撃の手段が、今回発表された「Windows 10 S」、「Office 365 for Education」、そして同時に発表された新しいSurfaceブランドのクラムシェル型PCとなる「Surface Laptop」だ。

 Windows 10 Sは、これまでWindows 10 Cloudという名前で呼ばれてきた製品で、Windows 10 Home、Windows 10 Proに続くPC向けWindowsの3つ目のSKUとなる。MicrosoftのWebサイトで公開されたそれぞれの違いは以下のようになっている。

Windows 10 Sの最大の特徴は、Windowsストアで配布されているアプリしかインストールできないという点にある。従って、Windows 7以前に作られたWindowsアプリケーション(たとえばWin32アプリなどは)は動かない。このように、ChromebookのOSであるChrome OSと同じように、ブラウザとアプリストアからインストールしたアプリだけが動くWindows、それがWindows 10 Sだ。

だが、Win32アプリなどは一切使えないわけではない。「Win32 Centennial」と呼ばれるWin32アプリをWindowsストアアプリにする仕組みを利用している場合は利用可能だ。Win32アプリとして有名なエディタアプリである秀丸も最近、Win32 Centennialを利用してストアアプリとして公開された。

なお、発表後米国のMicrosoft StoreではSurface Laptopの実機が公開されており、それで確認してみると、コントロールパネルのプログラムと機能の項目には、OneDriveだけが登録されており、ほかのWin32アプリは何も登録されていなかった。

 メモ帳(英語だとNotepad)などのOSに最初から入っているWin32アプリは登録はされているため、Win32アプリが動かないというのではなく、正しくは“Win32のインストーラが使えない”、これが正しい表現だと言えるだろう。従って、サードパーティのIME(たとえばATOKやGoogle IMEなど)は、Win32のインストーラーを利用してインストールされるので、利用できないということになる。

 MicrosoftはそうしたWindows 10 SをOffice 365 for Education、Microsoft Teamと組み合わて、文教向けに提供していく。Office 365 for Educationは教育向けにカスタマイズされたサブスクリプション型のOfficeで、Officeアプリが利用できるほか、Microsoftがクラウドベースで提供する各種のクラウド型サービスが利用できる。

 その目玉となるがMicrosoft Teamの文教版で、教師と生徒がクラウドを経由してさまざまなコミュニケーションを行なったりという使い方が可能になる。これによりGoogle Classroomに対抗するということだろう。

 なお、MicrosoftはWindows 10 SでもOfficeアプリを利用できるように、OfficeアプリのWindowsストア版をリリースする。それにより、Officeアプリの導入をより簡単にして、更新などもWindowsストア経由でできるようにする。Officeアプリのストア版は文教版と一般消費者版がリリースされる予定であることが、MicrosoftのOffice Blogにより明かされている(法人版がどうなるかは現時点では言及されていない)。

Surface LaptopはWindows 10 S搭載だが、事実上はWindows 10 Pro搭載のノートPC

MicrosoftはそのWindows 10 Sを搭載した最初の製品として、クラムシェル型ノートPCとなるSurface Laptopを発表した。詳しいスペックなどは別記事(『Microsoft、Windows 10 S搭載の薄型軽量ノート「Surface Laptop」』参照)に譲るが13.5型/2,256×1,504ドット(3:2比)の液晶ディスプレイ、Core i7(GT3e)/Core i5(GT2)、最大16GBメモリ、最大1TBのSSDといったスペックになっている。また、キーボード部分にはスエード調人工皮革となるアルカンターラ素材が貼り付けられており、手になじむデザインが特徴。

Microsoft Storeの店頭に置いてあった実機で確認すると、本体の左側面にSurface Book/Surface Pro 4と同じSurface Connect端子(ドック/ACアダプタ共用)が用意されており、従来のACアダプタおよびSurfaceドックを接続して利用することができる。

 端子は右側面に集中しており、USB 3.0端子、Mini DisplayPortのみが用意されているというシンプルなデザインになっていた。アルカンターラ素材が貼られているキーボードも触ってみたが、Surface Pro 4用のアルカンターラ素材のキーボードがそうだったように、本革のようななめらかな触り心地だ。

なお、このSurface Bookは999ドルからという価格設定になっており、Windows 10の中でもっとも安価なSKUであるWindows 10 S搭載PCにしては少し高いのではないかと感じる。Microsoftもそう考えているようで、米国で販売されているモデルは年内はWindows 10 Proに無償でアップグレードできると発表されている。つまり事実上はWindows 10 Pro搭載モデルと言っても過言ではなく、Windows 10 S搭載というのは、”見せ球”だと考えていいだろう。

日本でも文教向けのPCは注目を集める存在に、日本全体の生産性向上のためにもIT教育の充実を

文教向けのWindows 10 S搭載PCの本命は、Chromebookと同じ価格帯になると考えられているOEMメーカー製のWindows 10 S搭載クラムシェル型PCになると考えることができる。価格は189ドルからになると意欲的な価格が発表されており、Chromebookに十分対抗できるだろう。

 OEMメーカーのリストにはAcer、ASUS、Dell、HP、Samsung Electronicsに加えて、日本の東芝と富士通がOEMメーカーのリストに入っている。東芝と富士通が国内市場を中心にしている現状を考えれば、Windows 10 Sが日本に展開されるのは確実だと言っていい。

 では、こうした製品は日本ではどのような意味があるだろうか? 日本でも文教向けのPCは非常に熱い市場になりつつある。今年(2017年)の春モデルでNEC PCが大学生向けのモバイルPCを発売して話題を呼んだ。そうした学生向けのPCという取り組みは、今後PC業界にとっても、そして日本という国の競争力を上げる意味でも重要になっていく可能性は高い。

 現在のビジネスシーンで、Officeアプリを使えることは、ビジネスパーソンにとっては文字が読み書きできるレベルの話しで、それを否定するビジネスパーソンは誰もいないだろう。だが、学生の中にはPCやOfficeアプリなどが使えないまま就職し、就職してからPCの使い方を覚えるという例も少なくないという。本当にそれでいいのだろうか?

 現在日本では働き方改革を標榜する企業が増えている。というのも、ビジネスパーソンの働く時間を増やして(つまり残業時間を増やして)生産性を上げるという方向性を国家として否定していくことがコンセンサスとなりつつある今、企業が収益性を上げるには、ビジネスパーソンが同じ時間内での生産性をそれぞれ上げていくしかないからだ。今後も日本が国際競争力を維持するにはそうした取り組みが必須になる。

 そうしたなかで、生産性を上げるデバイスであるPCが使えない新社会人では、それを1から教育する分だけ企業にとってロスが発生する。であれば、新人であっても即戦力となるようなビジネスパーソンを育成することを教育機関には求められるようになっていくはずだ。

 そのためにWindows 10 SとOffice 365 for Education、そして低価格なOEMメーカーなデバイスは、教育機関にとって悪くない選択肢となるはずで、日本マイクロソフトが日本でどのように展開していくのかも含めて、要注目になっていくのではないだろうか。

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